公益財団法人 重複障害教育研究所
代表理事 津布工 浩
研究所設立者である初代理事長中島昭美先生のご遺志を継ぎ、長らく研究所の代表として経営から事務、運営に至るすべてを背負ってこられた中島昭美先生夫人である中島知子先生から、令和5年5月19日付で代表理事の仕事を受け継ぎました津布工浩です。
昭和54年(1979年)、当時学生だった頃に心理学専攻の勉強の一環で訪れたのが私と研究所との出会いでした。その後、研究所で縁をいただき、日本では唯一となった私立の盲学校である学校法人横浜訓盲学院で職を得て、現場教員、学院長を経て39年間、盲重複障害教育に携わりました。障害児教育と出会ったのが研究所であり、自らの人生の道標となった研究所に、盲学校の勤めを続けながら通っていました。
研究所は、盲ろう教育から始まり、様々な障がいを併せ持つ重複障害教育に携わってまいりました。大きな特徴は、障がいを持つ方々に学ぶという精神です。中島昭美先生は研究所設立に際して次のように述べられています。「研究所は、人間行動の成りたちの根本と人間存在の本質への洞察を深め、重複障害教育の基本姿勢を明らかにし、その教育の真のあり方を示す、人間行動の基礎科学の学術研究の振興と発展に貢献することを目的とする。」それは、ある特定の決まり切った教育方法や教育論とは一線を画し、ひたすらに、目の前の障がいを持つ方々との教育実践を深め、障がいを持つ方々に学ぶという姿勢が根本にあります。
現在、研究所の通所指導は、重複障がいを持つ方々が週末の土曜日や日曜日に月一回通所されています。長い方では40年以上も通い続けておられる方もいます。通所指導は、いかなる障がいがあっても、その障がいを克服、補償しようとだけするのではなく、その人らしい行動を理解することから始まります。その人のヒトとしての行動形成の基礎として、初期学習、概念形成の基礎学習、記号操作の基礎学習や教科学習、さらには社会的自立のための学習へと積み上げる教育を行っています。主に自作教材を用いて、じっくりと向き合い、ともに学び合う、実践を核とした教育です。
また、年一回、福井県鯖江市にある社会福祉法人光道園にて訪問合宿指導を行っています。この合宿は、中島昭美先生と光道園創設者中道益平氏との出会いによって行われるようになり、昭和44年(1969年)から長年続けられているものです。光道園の中核は入所型の成人施設ですが、活動の中に「学習」を取り入れている、日本ではあまり例のないほぼ唯一の障害者施設であり、その貴重な実践の一端として研究所の訪問指導事業が今日まで繋がっています。入所されている方々は勉強することを楽しみにしていて下さり、毎回、数十名の方々が参加して下さっています。
そして、研究所の大きな事業として行っているのが、重複障害教育の実践を取り上げた研究会、全国大会です。開催は50回を超え、毎年夏に、全国の重複障害教育に携わる教員、施設職員、研究者、当事者、保護者などが集まり、教育実践を深め合う研究会です。中島昭美先生と全国各地の重複障害教育にかかわる方々の絆を継承し、各地からの事例発表をもとに、障がいを持つ方々の輝く姿を語り合う場になっています。近年は、オンラインも取り入れたハイブリッド開催の形になり、全国各地の方々とオンラインでつながりながら研究会を行うようになりました。また本研究所以外にも、中島昭美先生との繋がりから全国各地に重複障害教育研究会が生まれ、各地での研究会・研修会が、今も開催されています。そして冬には、本研究所を会場にして重複障害教育の実践を勉強し合う会をハイブリッドで開催し、日常の実践を発表し語り合う場を設けるなど、様々な研究会を行っています。
また本研究所には、重複障害教育に携わる方々との繋がりを作り、全国に広げてこられた中島昭美先生が残してくださった著書や記録映像などが保管してあります。これらを広く利用していただけるよう整理、整備し、重複障害教育に携わる方々のお役に立てるよう努めてまいりたいと思っております。
どうぞ今後とも本研究所の事業を見守って下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。